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そこで誰かに引っ張られるような感覚がして、目が覚めた。
――――また、寝てしまったのか
友人と話しているときでさえも、寝たくないのに面白いと感じているのに、意識が遠ざかり、眠りについてしまう。
こんな私だ。友人は徐々に少なくなり、今では一人しかいない。
自分でも、眠りについてしまうことがどれくらい最低なことぐらいわかっている。
一人の友人も、最愛の両親でさえも困らせてばっかりだ。
きっと、空はもう茜色に染まっているはず。はやく帰らないと両親が心配する。
芝生から立ち上がり、いつも通り公園の外まで歩いていこうとしたところで足が止まった。
「こんな景色知らない」
目の前には神社の渡り廊下があり、両脇には枝垂桜が何本も生えていた。空を見てみると、更はいつも寝起きに見る茜色ではなく、薄紫色に染まっている。
いつも自分は意識を失うように眠ってしまう。いつもと違うところで眠りについた? いや、それは違うはずだ。だって、公園に来た記憶はある。
なら、誘拐?
自分の思いついた想像で、体が冷たくなっていくのを感じた。それだったら、どうしよう。また、迷惑をかけてしまう。
手先から体温が奪われていく。それを取り払うように、私の長い髪を舞い上げるくらいに強い風が吹いた。
桜吹雪の中そっと目を開けると、そこにはぼんやりと月明かりで照らされた神社の周りを桜吹雪が舞う幻想的な風景が繰り広げられている。
――――綺麗だ。
感動もつかの間、桜の花びらは地面に落ちてしまった。桜の絨毯は、まるでこっちだとでもいうように、渡り廊下に続いている。
その一歩を踏み出すと、足にふわりとした感覚が伝わった。
こんなにきれいなものを私が汚していいのだろうか。
そう思う心とは反対に私の足はどんどん渡り廊下に近づいていく。
渡り廊下の手前で足はぴたりと止まり、私は渡り廊下の屋根を見上げた。
渡り廊下に近づいた今ならわかる。ここは危険じゃない。なんの根拠もないけど、心がそう言っている。
心に従い、私は一歩、渡り廊下に踏み出した。
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