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通り雨
西日が赤く社内に射し、静かな部屋に仄かな彩りを与える。社長は商談で外出しており、俺は一人、和風創作レストランのメニューを試行錯誤していた。一つ溜め息を吐いた時、電話が鳴った。柔らかな電子音。
「ファイデザインです」
静か過ぎる部屋に似つかわしくない営業声で答える。
「こちら凪山小学校の木崎と申しますが、西依さんはいらっしゃいますか?」
社長の息子の学校からだ。
「西依は外出しておりますが、携帯から連絡させましょうか?」
「いえ、先程携帯のほうにご連絡差し上げたのですが、繋がらないようなのでこちらにお電話してみたのですが……」
商談中で電源を切っているのだろう。
「私、西依の部下の千坂と申しますが、栄進に何かあったのですか?」
今日は確か終業式で、と言うことは午前上がりじゃないのか? 今何時だ? 電話の向こうの女性は俺が社長の息子の身を案じたのを察して用件を語りだした。
「私は栄進くんの担任の木崎と申します。栄進くんなんですけれど、学級会が終わる頃に突然泣き出しちゃいまして、お家には誰もいないとの事でしたので保健室で様子を見ていたのですが、まだ落ち着かないようなんです」
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