悪夢の行き先

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悪夢の行き先

怖い夢は、寝て忘れるに限るよ。 幼い頃に母はそう言って、悪夢にうなされ目覚めた私を寝かせつけてくれた。確かにそうだ。悪夢は寝ると忘れてしまう。身が凍るような恐怖だって、最初から存在していなかったかのように、なにからなにまですっかり無くなってしまう。 大人になるまではずっと、そういうものだと思って生きてきた。なに一つ疑いなど持たずに。 疑問に思ったのは十三年前のこと。私はその夜、闇の深く深くに落ち、命からがら這い上がり、どうにか悪夢から目覚めたところだった。その夢の見事な描写に魅入られ、起きてすぐさまペンを走らせた。メモを残し、次の小説のネタにするつもりだったのだ。しかし、数行も書かぬうち、どうしようもなく強大な睡魔に呑まれ、ペンを持ったまま寝てしまった。 翌朝、何事もなく目覚めると、悪夢の全てを思い出せなかった。数行書いたメモを読んでも、何一つ理解が出来なかった。 「滑り台と錦蛇」「無惨な博士とグランドピアノ」「引き出しの中に左目」「地平線に並ぶサイコロ」 これら全てが、私の中から無くなった事だけは確かだった。 私はどうしても、その事実に納得が出来ず、そこで初めて一つの疑問を持ったのだ。     
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