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「今年は何つくろっかなー」
「ホワイトデーちゃんとお返しするんで!義理チョコ恵んで下さい!」
「えー?しょうがないなー」
仕事中だというのに、目前に迫ったバレンタインの話題で浮かれる同僚達。
何がそんなに楽しいというのか…想いを寄せる相手から貰える保証があるわけでもないのに。
「橋川さん!ぼんやりしてますけど、どうかしたんですか?」
心の中で同僚達を蔑んでいると、不意に声を掛けられた。
耳に心地よく響くソプラノ。視界に入る肩までの黒髪が、サラサラと揺れている。
「あー…九重さん?何でもないんだ」
「そうなんですか?あ、この資料一つ教えて頂きたい箇所があるんですけどーー」
私だって、貰える物なら愛しい人からのチョコが欲しい。でも彼女は、私の事をその対象としては見ていないのだろう。
「そうだ、橋川さん甘い物ってお好きでしたっけ?」
「好きだけど。もしかして、バレンタイン?」
「当たりです!ふっふっふっ…当日楽しみにしてて下さいね!吃驚させちゃいますから!」
そんな宣言本人にして良いのだろうか。くれると言うからには期待したい所だが、きっと私が求めている物とは違う物をくれるのだろう。
バレンタイン当日は、会社だけでなく街中至るところで大騒ぎになっていた。
当日だろうと構うことなくチョコを売る商店。チョコの用意が間にあわず買い求めにやってくる客。自分用に買っていく者もいるようだ。
「…阿呆らしい」
皆何故そんなに阿呆みたいに盛り上がれるのかが理解できない。意中の相手が自分以外の人間にチョコを渡している姿を見たことがないのだろうか。
一度でも見てしまったら、きっとこう言いたくなるだろう。『バレンタインなんて大嫌いだ』と。
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