夜空に煌めく夜蝶たち

58/103
前へ
/704ページ
次へ
  「失礼いたします。ちひろさんです」  白い肌を際立たせるような、黒いドレスを着たちひろが小さく頭を下げた。そして、オレの隣に座る。  拳ひとつ分の距離。  近すぎず遠すぎない、この距離感がオレにとっては心地よく。嘘の無い距離に感じた。今も、変わらない距離感。 「直くん、楽しんでる?」 「その呼び方、やめろよ」 「えへへっ、出会った頃みたいでしょ?」 「でも、あの頃のちひろは、黒のドレスなんて着なかったけどな」 「どう? 大人っぽいでしょ」  君は、十分に大人だろ。まぁ、確かに未だに制服を着たら、女子高生に見えなくもない童顔だけど。  ただ、こんなとりとめの無い会話が楽しくて。ついつい、酒を飲むペースが早くなってきてしまう。  これだ、これがオレにとってのキャバクラなんだよ。  そんな実感を噛み締めつつも、ほんの十分程度でちひろは別の席へと移って行ってしまった。
/704ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加