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「失礼いたします。ちひろさんです」
白い肌を際立たせるような、黒いドレスを着たちひろが小さく頭を下げた。そして、オレの隣に座る。
拳ひとつ分の距離。
近すぎず遠すぎない、この距離感がオレにとっては心地よく。嘘の無い距離に感じた。今も、変わらない距離感。
「直くん、楽しんでる?」
「その呼び方、やめろよ」
「えへへっ、出会った頃みたいでしょ?」
「でも、あの頃のちひろは、黒のドレスなんて着なかったけどな」
「どう? 大人っぽいでしょ」
君は、十分に大人だろ。まぁ、確かに未だに制服を着たら、女子高生に見えなくもない童顔だけど。
ただ、こんなとりとめの無い会話が楽しくて。ついつい、酒を飲むペースが早くなってきてしまう。
これだ、これがオレにとってのキャバクラなんだよ。
そんな実感を噛み締めつつも、ほんの十分程度でちひろは別の席へと移って行ってしまった。
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