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目の前に立っていた龍司が、俺の座っていたベンチの隣をちらりと見ると、傘を持ちかえてゆっくりと腰を下ろした。
ベンチには屋根がない。
俺が座っていた場所以外はびしょ濡れで、座った途端雨水がズボンに染み込んだようだ。
一瞬だけ眉間に皺を寄せた龍司は、俺の顔を覗き込みながら訊ねてきた。
「うん…あのね。父さんを待っているんだ…」
「こんな土砂降りの中でか…?いつから待っているんだ?」
「もう、ずーっと前…かな」
本当のことを言えば、父さんが会社に出かける時だから朝の9時位から待っているんだと思う。
でも、あの時の実際の時間が本当にその時間帯だったのか、そして今現在の時間が父さんを見送った日の夕方なのか…それすらも曖昧な程、俺には長い時間に感じた。
自嘲気味に笑った俺は、持っていた傘を握ると隣に座っている龍司に笑顔を向ける。
てっきり笑って返してくれるかと思って見た先の龍司の表情には一切の笑みはなく、代わりに泣きそうな程歪んだ表情があった。
――なんで龍司がそんなに辛そうな顔するの?
何も言葉を発しようとしない龍司の辛そうな表情に、笑っている自分が馬鹿みたいに思え、目を逸らしてしまう。
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