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父さんが仕事に出かけてから10年の月日が流れた。
仕事に行ったと言える日にちとは、到底言えない日数である。
龍司に助けられてから、龍司の家でひたすら父さんの事を待ち続けた。
数分おきにこまめに窓から公園を見る日々が続いた。
朝も、昼も、夜も…。
でも、一週間経っても一か月経っても、一年経っても父さんが公園に現れる事はなかった。
そしてわかってしまったのだ。
“捨てられた”のだと。
幼い俺はひたすら泣き続けた。
何故父さんが俺を捨てたのかが、全く分からなかったからだ。
母さんが死んでから、ずっといい子にしていたつもりだった。
泣いたら父さんに迷惑かけてしまう、我儘言ったら父さんを困らせてしまう。
そう思っていたから。
俺が笑っていれば父さんも喜んでくれる。
だからどんなことがあっても笑顔でいた。
なのに、なんで?どうして?
叫ぶように龍司に迫った事もあった。
龍司はなにも話さず、じっと俺を見つめ強く抱きしめてきた。
そして一言だけ言ったのだ『俺がいるから』と
「はぁ。思い出したくなかったなぁ…」
昔の事を思い出すと、胸が締め付けられるように苦しくなる。
その時だった。
コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえ、湊は扉の方へ視線を移した。
「湊?朝だぞ。起きてるか?」
「あっ、龍司!うん、起きてる!」
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