2664人が本棚に入れています
本棚に追加
息を切らす少年、龍司をじっと見上げながら名乗ると、吸い寄せられそうなほど綺麗な黒曜石の様な瞳に息を呑んだ。
綺麗な目…
目が離せない…
「湊。このままじゃ風邪引くから…これ着てろ」
龍司から目を逸らすことができないでいる俺の体に暖かい何かが覆いかぶさり、それが龍司の身に着けていたコートだと気付くのに少しだけ時間がかかった。
「あ、ありがとう!」
龍司がかけてくれたコートは冷えきった俺の体を温めるには十分な程暖かく、ついさっきまでぽっかりと空いていた穴を埋める様な感覚さえ覚えた俺は、精一杯の笑顔で笑った。
「―っ」
「…?どうしたの久堂くん?」
目を開き、固まってしまった龍司を見上げると俺は首を傾げた。
「…いや、なんでもない。それとその久堂くんってやめてくれ。普通に名前を呼び捨てで構わない。」
「えっ…でも、年上だし。」
「そんなの気にしないから名前で呼んでくれ。苗字で呼ばれた事ないし、なにより苗字呼びは距離を感じるから好きじゃないんだ。」
「そっか。うん、わかった龍司」
初対面だと言うのに、いきなり呼び捨てでいいのかと少し困惑したが、本人がいいと言っているのならいいかと自分を納得させ、首を縦に振る。
「そんな事よりお前。こんな雨の中、こんな所で何をしていたんだ?」
最初のコメントを投稿しよう!