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「未羽ちゃんね、名門のK大附属幼稚園でエスカレーター式だったのに、晴希と同じ学校がいいってご両親に泣きついて公立小に入ったのよ。スケートはじめた理由も同じだし、あなたにペアかアイスダンス転向って話が来た時も、他の誰かと組んで滑るの見たくないって思いつめて、コーチに頼みこんだって、未羽ちゃんママが言ってたわ」
「そんなの初めて聞いた……てか、教えてよ!」
「だって晴希が知らないとは思わなかったもの」
僕は天を仰いだ。
なんてことだ。なんてことだ。
未羽があんなに辛辣になったのもわかる。
奮発したチョコに大好きと書いて贈ったのにお礼もお返しもなく、他の女の子たちには愛想良く対応したなんて、未羽はどんなに傷ついて悲しかったことだろう。腹立たしかったとも思う。
憎まれ口も塩対応も、それがきっかけなら僕に文句を言う資格はない。
「嫌われてると思ってた」
「嫌いな相手と毎日お手手つないで練習なんて続かないと思うわ。スロージャンプとかリフトとか、高難度の技にも2人で挑戦してきたでしょう? 厳しいこと言ったって、いつだって晴希を信頼して体あずけてくれてたじゃない」
ひと言も反論できない。
ペアの女子はパートナーに持ち上げられたりふり回されたり、スロージャンプの時なんか思い切り放り出されたりもする。相手への信頼がなければ練習すらままならないはずだ。わかってたはずなのに僕は……。
脳内で唇を奪われたシーンがフラッシュバックし、血が逆流したような感覚に体の芯が熱くなった。
「ちょっと出てくる」
僕は上着をつかんで部屋を飛び出した。
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