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「三輪くん」
教室に入ろうとしたところで声をかけられ、ふり向くと違うクラスの女の子が立っていた。
「これ、受け取ってくれる?」
ちらっと目を落とすと、彼女が持った紙バックには有名ショコラティエの店のロゴが入っている。
「もらっていいの?」
「うん。チョコ好きだって聞いたから差し入れ」
「ありがとう」
僕は嬉しくなって、彼女の手を両手でしっかり握ってお礼を言った。
バレンタインデー以外にもチョコをもらえるなんて、フィギュアスケートをやっていて良かったと心から思う。
「全日本フィギュア頑張ってね」
はにかんで言う彼女に、僕はにっこり微笑んでうなずく。
「ちょっと邪魔!」
突然のきつい声に、チョコの彼女は逃げ去ってしまった。
せっかくの甘い気分を台無しにされ、声の主をじろっとにらむ。
同じクラスの斎藤未羽。
日本人形のような黒髪ボブが似合う可愛い女の子だが、彼女に優しくしたいとは思わない。家が隣同士でスケート仲間でもあるのに、未羽は義理チョコひとつくれたことがないからだ。
「いちゃつくのは勝手だけど、デカい図体で入口ふさがれると迷惑なんだよね」
「関取みたいに言うな」
「チョコばっか食べてたら、そのうちまじで関取みたいになるんじゃない?」
未羽は鼻で笑いながら通り過ぎ、さっさと自分の席に行ってしまった。
「相変わらずよね」
近くで女の子たちがクスクス笑う。
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