21人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょ……やめっ」
「おとなしくして。こういうこと慣れてるんでしょ」
「慣れてるって何!?」
僕はカッとなって未羽を押し退け、ベッドから離れた。
「そんな風に思ってたんだ? 悪いけどキスだって今のが初めてだから」
「嘘……」
「ほんとだよ。だいたいさ、放課後も土日もずっと練習してるのに、女の子と遊ぶヒマなんかあるわけないだろ」
部屋の灯りをつけてふり向くと、未羽はベッドの上で顔を隠して小さくなっていた。
「ごめん、ずっと誤解してた……チョコ目当てなんて口実で、本音は遊び目的でモテたいんだって」
僕は深いため息をついた。
バレンタインデーが大好きで、チョコをもらうために頑張ってる――未羽には宣言したことがある。ずいぶん前、まだ子どもの頃だ。
「未羽は1回もチョコくれなかったよね」
「昔あげたよ? 無視されたけど……そのうえ忘れられてるとか、正直つらい」
信じられないことに、未羽は泣きべそをかいていた。
「いつの話?」
「言いたくない。どんな辱めよ」
「ちょっと失礼!」
いきなりドアがあいて母が入ってきた。
「2人とも深刻そうだったから様子うかがってたんだけど」
「盗み聞き!?」
「晴希、お母さん情けないわ。女の子にこんな恥かかせて」
母はベッドに行くと未羽の肩を抱いて座り、非難がましい目で僕を見上げた。
わけがわからない。恥をかかされたのは、むしろ僕の方じゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!