1、とろけるようなきみ

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1、とろけるようなきみ

きみを初めて食べた時の感動は忘れられない。 青い箱をあけると、ふわっと甘い匂いがした。 茶褐色のつややかなきみを指でつまんで口へ……舌の上でとろけるような濃厚さに、僕は夢見心地になったものだ。 僕の父は毎年2月半ばに大量のチョコレートを持ち帰ってくる人だった。 幼い頃は毒だからと食べさせてもらえなかったが、5歳ぐらいから消費を手伝えるようになった。 「よくもまあ毎年こんなにもらえるわね」 母は面白くなさそうな顔で、僕が何回めかに伸ばした手をキュッと握って止めた。 「もうやめなさい。鼻血が出るわよ」 なぜチョコレートをたくさん食べると鼻血が出るのか、それは今もわからないし知りたくもない。 「お返し用意するのも大変なのよ」 チョコレートの山を前に、ため息を吐く母に聞いてみた。 「なんでお父さんはチョコもらってくるの?」 「バレンタインデーだからよ」 「ばれんたいんで?」 「そう、バレンタインデー。女の人が男の人にチョコレートあげる日なの」 そんな夢のような日があるなんて! 僕は男に生まれて良かったと思った。 「僕も大きくなったらもらえる?」 「大きくならなくてももらえるぞ」 目を輝かした僕の頭を、父が大きな手でわしゃわしゃ撫でる。 「晴希(はるき)は男前だから、あと何年もしないうちにいっぱいもらうようになるだろうな」 「おとこまえ?」 「かっこいいってことだよ」 「僕かっこいい? かっこいいと、いっぱいもらえるの?」 「そうだ。お父さんもかっこいいから、いつもこんなに……」 「ねえ、ちょっと、よけいなこと教えないで」 母があわてて止めたが、僕はもうばっちり理解していた。 ――かっこいい男はチョコをいっぱいもらえる!
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