いないないなばぁ

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いないないなばぁ

 それか夢だということははっきり判っていた。  辺りの風景と様子から、自分が赤ん坊だった頃の夢を見ていることも確信できた。  どうにか一人で座れるようになった。そんな私の前で、色んな人が私をニコニコと見つめ、あやしたりおどけたりしてみせる。  両手で顔を覆い、すぐに笑いかける『いないいないばぁ』。  もう二十年以上も前だから、今より両親はかなり若い。父方の祖父母も母方の祖父母もだ。  でも、年齢がかさんでもきちんと判断できる人達の中に一人だけ、見覚えのない人が混ざっていた。  仕草は確かに『いないいないばぁ』のそれなのに、晒した顔がまったく見えない。見覚えがないというよりは、その人の顔だけ何かで遮られているように、造りも表情も見えないのだ。  何度か同じ夢を見たが、一度としてその人の顔をきちんと見ることはできず、両親に赤ん坊の頃の話を聞いても、親戚や近所の人でも、私が赤ん坊の頃、そこまで頻繁に家に出入りした人はいないということだった。  所詮夢だから、赤ん坊の記憶ではなく、最近の知り合いがたまたま紛れ込んでいるだけ。  母にそう言われ、私も納得して、そこからその夢は見なくなった。  そんなある日。  部屋で本を読んでいる途中、ついうたた寝をしたのだと思う。  気づくと私はまた赤ん坊になっていて、ぼんやりと、まだ真新しい家の中を眺めていた。  夢の中では、いつも両親か祖父母の誰かが必ず側にいるのに、今日は周囲には誰もいない。  赤ん坊の私だけが小さな布団の上にちょこんと座っている。  その視界の遠くで何かが動いた。
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