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戦場にて
頭上から照りつける日差し。
背を伸ばした草むらにうつ伏せる少女の名は、咲耶。
小袖を帯で締め、黒いハイソックスに草履という、忍者のような格好。
小袖がピンクに帯が黄色と、隠れるにはかなり不安な目立つ色合いだが、本人はもはやそれを気にする余裕もない。
姿勢低く、挙動小さく、呼吸浅く。
瞬き少なめの眼はぎらぎらと前方を見張り、心の臓は激しく、ドクドクとした緊迫を全身に送り出している。
「……こっちの戦力は、もうほとんど残っていないですね」
頭の後ろで一つに結わえた黒髪を揺らし、咲耶が囁いた。
何が発端で、この戦いが起こったのか。
どちらが先に仕掛けたのか。
それを知り得る味方は、もう彼女の側には居ない。
捕虜の救出。
敵の制圧。
上記2つが、咲耶と、生き残っている彼女の仲間の任務である。
「ずっとこうしていても埒があかないのはわかっているんですが……」
咲耶の隣に伏せるもう一人の少女が言った。
オレンジの髪を二つのお団子に結わえ、黄色い小袖に白い帯を巻いた少女で、名はシャオランと言った。
「作戦の1つとして、今残っている全員で一斉に突入し、ゲリラ的人海戦術で一気に片を付けるという手段が、あるにはあります」
と、シャオランの言う戦術とは、 ベトナム戦争において、技術力で勝るアメリカ軍を相手に、北ベトナム兵たちが見せた戦術だ。
目的を達成するという事のみに焦点を合わせれば、有効な戦術と言える。
「でも……」
咲耶は唸る。
高火力の機関銃に対し、四方から大人数で襲い掛かり、“誰かが狙われ、撃たれている間に”別の誰かが敵に到達して倒すのが、人海戦術。
数で圧すのが、人海戦術。
つまり、少なからず、“誰か”が“的”にならなければならないという事だ。
勝率は高いが、犠牲率も高い諸刃の戦術。
「すすんで犠牲になりたがる人が居るかどうか」
いざ窮地に陥った戦いを強いられると、人間はこうも命が惜しいものかと、咲耶は自分の心境にショックを受ける。
神風特攻隊の志願者のように、愛する国のために自ら志願して犠牲になるような、英雄的選択ができるほどの愛国心も、守りたいものも、十代の少女である咲耶たちにはまだ無かった。
若いが故に、持ち物も少ないのだ。
そんな、若い彼女らが今、こうして戦場に身を伏せている。
何と残酷な事かと嘆くジャーナリストも、ともすると居るかもしれない。
と、ここで咲耶とシャオランの背後から物音が聞こえた。
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