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「っ!?」
驚いたように身を捻り、後方を確認する二人。
「ネムさん!」
と、咲耶は友人の名を囁いた。
このネムという少女も赤、黄、緑、青、紫、オレンジといったカラフルなメッシュの入った目立つ髪の毛に、紫を基調とした小袖と帯。隠れる気はあるのかと問われそうだが、現状、そうしたツッコミを入れる人物は生き残っていない。
「咲耶はこの状況、どう思う?」
と、匍匐前進でじりじりと進みながら、ネムは咲耶に意見を求めた。
「視認できる敵は2人。対するわたし達はぜんぶで5人。全員で飛び出せば勝機があるとは思いますが、無線機が無いからタイミングを合わせられない。厳しい状況です」
頬を地面に貼り付けるようにして身を伏せ、咲耶は答えた。
「かといって、このまま隠れていてもいずれは奴らに見つかって、こっちが負ける」
と、ネム。
「わかってます。もう何人もやられてしまいました……」
シャオランが悔しそうに言った。
今この場に居るのは咲耶、シャオラン、ネムの3人だけだ。
少し前までは、咲耶たちの更に前方の草むらに味方が居たのだが、敵に発見され、犠牲になってしまっていた。
「ここは、リーダーであるあたしが一肌脱ぐしかないな」
「え!?」
咲耶は耳を疑った。
ネムは今、一肌脱ぐと言った。
「ネムさん、まさか囮に?」
「そのまさかだよ。なぁに、向こうはたった2人。ちゃちゃっとやっつけてやるさ。みんなで家に帰ろう。無事に帰れたら、あたし、同じクラスのあの子に、告白するんだ!」
「ま、待ってください!」
と、シャオラン。
「そうですよ! ヘンなフラグ立てないでください。敵の巡回パターンを把握してもっと戦術を――」
「うぉおらぁああああああああああッ!!」
その豊満な肉体を持ち上げ、果敢に地を蹴り、ネムは飛び出して行った。
彼女が駆けて行く振動が、彼女の最後の雄叫びが、大地を揺らした。
(ネムさん!!)
声にならない悲鳴を上げ、咲耶は友人の勇姿を見届けた。
ネムは、戻らなかった。
「――ネムさんのバカ!」
咲耶はキツく握った拳を、野に叩きつけた。
咲耶を含め、残る戦力は4人。
(咲耶。お前は、このままここでじっとしているのか?)
歯を食い縛り、咲耶は自分に問いかける。
(仲間の仇を、討つ気はないのか?)
飛び出していく直前、こちらを振り向いたネムの、勇ましい表情を思い出す。
そうだ。
仇を、討つ。
立ち向かうのだ。
咲耶の心に、ネムが勇気を残してくれたらしい。
(もう、ネムさんてば1人で無茶して。わたし達を置いていかないでくださいよ)
咲耶は自然と肩の力が抜け、笑みが零れてくる。
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