戦場にて

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「――ふふ」  玉砕を前に、自分はおかしくなったのかと一瞬思ったが、咲耶はすぐに否定した。  これは武者震いだ。  若さ故の、知らぬが故の、前進欲。  素敵だと思った事を、『次はわたしの番!』と真似たがる、乙女心。 「うおおおおお!!」 「でやあああああッ!!」  遠くで、二人の仲間の声が上がる。  彼らも、ネムの最期を見て、勇気付けられたに違いない。 「咲耶さん、ワタシたちも!」   と、シャオランが眉宇を引き締めた。   咲耶は頷く。   遅れを取るな!   続け! 「こっちだああああああああああああ!!」  咲耶とシャオランはクラウチングスタートの如く前傾姿勢で飛び出した。  二人の引き締まった身体は風を切り裂き、弾丸の如く走る。 「見つけたぞォ!!」  敵もすぐさま応戦体勢に入り、先に飛び出していた仲間が、けたたましい雄叫びと共に果てる。  それでも、咲耶たちは止まらない。  恐れはなかった。  敵陣から、捕虜と思しき面々の声援が聞こえる。 「行けぇ!!」  と、ネムの声が、風に乗って聴こえた気がした。 「――ッ!!」  咲耶は最後に、薄く笑んだ。  カコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!  勝利を告げる高らかな音が、真夏の青空に響き渡った。  ――缶蹴りである。
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