辞令

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長谷部さんが大阪に転勤してからもう1ヶ月が経とうとしていた。出社しても彼の姿が見えない毎日は色褪せて単調でオシャレをする気にもなれなかった。 きっかり定時で帰れるように淡々とルーティンワークをこなし、余計な無駄遣いもせず真っ直ぐ帰宅した。誘われても合コンには行かず女子会に1度行ったきり。 たった一人の質素な食事はあっという間に済んでしまう。友達とのゴハンでもなければスマホをいじって寝るだけ。こんなにも味気ない日々。こんなにも寂しい20代。 都心からメトロ乗り入れで40分。郊外の新しくもない1DK。それでもかなり掘り出し物的な物件だった。みんなこんな部屋が寂しくて結婚したくなるのかもしれないとふと思った。 「結婚か…」 声に出して呟いていた。焦りはないけれど考えない訳ではない。もうとっくに適齢期だ。でも私の心には長谷部さんしかいなかった。結婚はできない人。 スマホの鍵付きのアルバムに長谷部さんとの写真入れてある。うっかり同僚の前で二人の写真を開いたりしてはいけないから。 写真を見ているとまた電話したくなった。長谷部さんが遠く遠く感じた。彼はまだ転勤したばかりで忙しいはず。しつこくしたくないからできるだけ我慢している。それでもやっぱりかかってくる電話よりかけてしまう方が多いことに気づく。苦しい。
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