辞令

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いつも理解できないと思う疑問が口をついて出た。 「奥さんは長谷部さんに会いたくないのかな?」 「さぁ。会いたきゃ来るだろ。」 「連休に来るなら会いたいのか…」 長谷部さんはそれには答えなかった。 「私なら絶対離れないのにな。長谷部さんと離れて苦痛を感じないのが不思議。ほんとに。」 ずるいと思った。長谷部さんと離れていても苦しくない人が彼を縛っている。長谷部さんは奥さんと会えないことをどう感じているのだろう。寂しいのか…会いたいのか… 「ねぇ?」 「ん?」 「奥さんと私とどっちに会いたい?」 そんなこと聞くべきじゃないと分かっているけれど嫉妬が止まらなかった。 「そんなこと…」 「そんなこと?聞くなよ?」 「決まってるだろ。愛実に決まってるじゃないか。」 「じゃあどうして…」 口をつぐんであとの言葉を飲み込んだ。 「俺は愛実に会いたい。誰よりも愛実に会いたいよ。」 「うん…」 じゃあどうして連休は奥さんを優先するの?じゃあどうして転居の手伝いもしに来ない人に合わせるの? じゃあどうして私より奥さんなの? 奥さん…だからだよね… そんな思いは密封してどこかに閉まっておくべきなんだろう。誰よりも私には会いたいと言ってくれるんだから。 「連休の前の金曜の夜に行くね。その日なら大丈夫?」 「いいよ。待ってる。」 喉元で嫉妬の熾火がまだ燻っているみたいに痛かったけれどそう言って電話を切った。
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