年上女は年下上司に愛される。

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「そっすね! 了解です! 頼りがいのある男ですね! 俺仕事頑張ります!バリバリ仕事して、デキる男ってのになってやります!」 ふんっと鼻息荒く、ガッツポーズまでかまして勢い込む沢渡を、横目で見やって溜息をついた。瞳を輝かせてニカっと笑う姿に、注意しようとした気が失せる。 ……良いヤツなんだけど。なんというか、イノシシ型?猪突猛進? 真っ直ぐなんだよねぇ……。過ぎるとも言うが。 自分の中にはすでに無いその実直さが、微笑ましくて羨ましい。 弟を思う姉の気持ちとは、こういうものかもしれないと、その時の私は思っていた。 ◇◆◇ 「先輩っ! K宮社の契約取れました! 明日はSTシステムにアポ取ってるんで、行って来ます!」 「え、K宮のヤツ取れたのっ? 凄いじゃん沢渡! さすが私が見込んだだけはあるっ! よっし今日は祝い酒よ! 明日も取れたらまた奢るからねっ!!」 「おっしゃーっ! 先輩俺頑張りますっ!!」 どこの運動部だ、と部署内の仲間からは冷やかされたけれど、バリバリ仕事するという宣言通り、沢渡は尋常じゃないスピードで成果を上げていった。 元々の質が良かったのかもしれないが、真面目で人当たりも良く、頭の回転も早いヤツだったから、みるみるうちに出世コースを走っていった。営業先で会う担当者や役職者が、総じて四十代~から五十代のおじ様方だったのも成果に繋がった一因だろう。 沢渡は団塊世代の人間に与える印象がすこぶる良いのだ。 私が思うに、ヤツの体育会系気質が好まれているのだと思う。 沢渡と商談を終えた相手方が必ず口にするのが、「俺の若い時に似ている」の一言だった。昭和に育ち、バブルからその崩壊後も生き抜いている企業戦士である彼らは、どこか懐かしそうに沢渡の熱心なプレゼンを見つめていた。 そんな沢渡を、私は契約が取れる度、成果が上がる度、祝ってやった。 ごくたまに、ミスをしたと落ち込む彼を、これまた飲んで忘れよう! と背中を叩いて励まして。 そんな私に、沢渡は「先輩に言われたらやる気がでます!」とニっと明るい笑顔で言ってくれて。何度も何度も、飲んで騒いで笑いあって。 居酒屋を出て、夜空に向かって「明日は取るぞ!」と二人で馬鹿みたいに気合を入れて。 後輩の成長を間近で見ていた私も、その背中に励まされていた事を、彼は知らないだろうけど。
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