年上女は年下上司に愛される。

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そうして気がつくと。 ……ってあれ、私いつの間にか抜かれてるし。 というそんな状況になっていた。 「沢渡さん! 明日のJ社との打ち合わせの件なんですけどっ」 「ああ、それはね――――」 今年入った新人が、沢渡に熱心な目を向けている。それにニコリと笑って答えている彼の姿。トレードマークだった「っす」な口調は、今や使われる事は無くなっていた。 着慣れたスーツ姿が、あの頃と違って馴染んでいて。快活さはそのままに、言葉遣いは丁寧になり、社会人らしい「落ち着き」と「冷静さ」が備わっている。 『先輩と後輩』 じんわりとした思いが心に広がる。 かつて、あの光景にいたのは私達。 懐かしさを感じながら、少し離れた席で沢渡と新人君とのやり取りを眺めていた。 部下だった後輩は、今や私の上司になっていた。 営業部主任、なんて大層な肩書きまでついて。 若干二十六歳のスピード出世に、周囲は羨むどころか化け物扱い。 嫉妬されないのは本人の人格ありきだろうが、むしろ違う意味でも今や渦中の人となっていて。 それもそのはず、寿退職を目標としている女性社員軍からは『将来有望、未来の夫候補ダントツ一位』という社内最高 クラスの称号がつけられていた。 成長した沢渡に向けられる女性達の目が、獲物を狙う捕食者の様で、本人がちょっとびびっていた。 私はと言えば、沢渡の成長っぷりに「新人指導って楽しいかも?」という思いに駆られ、今は通常の営業業務の傍ら、配属された新人君への最初の営業指導を行っている。 以前は沢渡の時の様に、部に配置されてすぐに先輩営業マンにつけられていたのだけど、それをワンクッション置いて営業の基本を叩き込むのがあたしの仕事だ。 ここしばらくの間に何人かの営業マンの卵が指導を終え、各先輩方の元へと振り分けられていった。今沢渡に質問している新人君も、この間あたしの指導を終えたばかりのホヤホヤだ。彼もまた、沢渡や他の先輩に叱咤激励されて一人前へと育っていく。 仕事にやりがいを感じているのはもちろんだけれど、最近は少しだけ肩身が狭いのも事実だったりする。 年齢的な事もあり、寿退職の「こ」の字も出ないお局が紅一点で営業部にいると噂されるのは、仕方ないとは言え少々辛かった。
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