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二十四歳だった沢渡は二十六になり。
彼より三つ上の私はアラサー……本当に、時間の流れと、沢渡のこれまでの頑張りに感心する。
仕事も出来る、中身も外見も上クラス、かつての彼とは違って、振る舞いもなんだか落ち着いてきて。
何気ない仕草にドキリとしてしまうほど、彼は誰が見ても『良い男』になった。
たとえ沢渡がまだ想い人に気持ちを伝えていなくとも、もうそろそろ、私も彼とこうやって過ごすのは控えなければいけないかもしれない。
いつか沢渡の隣に並ぶ人の為に。二人の恋路を邪魔する可能性の無い様に。
なんて、彼と酌み交わすお酒をちびちび口にしながら、私はそんな事を思っていた。
「先輩は……結婚、しないんですか?」
沢渡から出た嬉しくない話題に、私は返事を苦笑いで返す。
ストレートな所は、昔とあまり変わらない。
彼は未だに私の事を先輩と言う。もちろん会社じゃ言わないけれど、こうやって飲む時にだけまるで昔に戻ったみたいに呼んでくれる。
それが私は嬉しくて、ちょっとこそばゆい。
昇進した途端、態度ががらりと変わるヤツもいるのだろう。
けれど、沢渡はやっぱりそんな事もなく、未だにこんな感じだった。
「そんな相手、どこにいるってーのよ。私の場合は、結婚しないんじゃなくて相手がいないのー」
まぁ、この前実家からお見合いの話だってちらっとされたし、そろそろやってみてもいいかなとも思ってるんだけどね。
しょうがないじゃない?
自分で相手見つけられないなら、そういう手段使うしか。
「……なら、俺と結婚してくれませんか」
勢いよく、口内の液体を噴出しそうに……なったけど堪えた。
ななな、と声になってない呟きを出しながら、私は隣の沢渡を凝視する。
……今、なんつったコイツ?
空耳?
いや、酔ってんの?
「な、なにー? 沢渡酔ってんの? そもそもアンタ片思いの人はどうなったのよ? あ、もしかしてついに告ったけど振られて、ヤケになってるとか?」
茶化して言う私に、じっと向けられた沢渡の視線。
真剣な表情に、え? と身体が固まった。
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