257人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「今、先輩に断られたらそうなりますね」
カラン、とグラスの中の氷が音をたてて。
沢渡が飴色の液体に口をつけた。
その姿に、どくんと鼓動が跳ね上がる。
あれ?
あれ……?
コトリとグラスが置かれて、再び彼の視線が私に向いた。
「先輩言いましたよね。年上の女性を落とすには、頼りがいのある男になれって。これでも一応、仕事は頑張ってきたつもりですし、その中で成長もしたつもりです」
あたしに視線を真っ直ぐ向けて。
彼の瞳の中に私が居て。
向けられた真剣な表情は、酔っている様には……見えなかった。
「……俺じゃ、駄目ですか?」
「え……」
言葉が出なかった。
彼が言ったセリフから浮かんだのは、懐かしい記憶。
あたしが、まだ彼の事を後輩として呼んでいた時の事。
『先輩っ! 自分より年上の女性を落とすにはどうしたらいいすかっ!?』
『なあに沢渡、あんた年上好きだったっけ? んー。そーねぇ、年上の女って言っても女は女。やっぱりこう、頼りがいのある男に弱いんじゃない? 仕事でもメンタルでも』
仕事しながら、告げたアドバイス。
切羽詰った彼が、微笑ましかった。
あれは……
「先輩。今の俺って、先輩にとって頼れる男になれてますか?」
今の彼が目の前で、私を見てふわりと笑ってそう言った。
後輩としての顔はいつの間にか消えていて。
見つめられると鼓動が跳ねてしまうほど、魅力ある人になった彼がいた。
最初のコメントを投稿しよう!