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……頼れる男になれてるか、なんて。
そんなの決まってる。
先を歩いていく彼がいつからか、遠く感じた時があった。
だけど、職場での立場が変わっても、私がミスをしたり、体調を崩すと一番に気付いてくれたのは彼だった。
上司と部下となっても、変わらず接してくれた。
今も変わらず、先輩と呼んでくれて、真っ直ぐ笑って見てくれる。
……惹かれてなかったはずがない。
瞬く間に素敵になっていくかつての後輩に、心動かされなかったわけがない。
だけど私は彼にとっては『先輩』だったから。
密かに片思いをしていた。
気持ちに気付いた時にはもう遅くて、沢渡には想う人がいた。
だから、時期がくれば。
静かに離れるつもりだったのに。
「沢渡……結婚って、順序すっ飛ばしてるじゃない……」
この嬉しさを、どう伝えたらいいんだろう。
泣き笑いで返す私に、沢渡が一瞬驚いた顔をして。
照れた笑顔を返してくれる。
「先輩に振り向いてもらいたくて、色々飛ばしてやってきましたからね。これくらいは後輩の愛嬌として、許してほしいです」
ぎゅ、と私の手が彼の手に包まれて。
その大きな手を握り返した。
「よろしく……お願いします」
そう言った私に、沢渡がいつかの頃の様に「よっしゃぁっ!」とその場で歓喜の声を上げ。
そのままぎゅうと抱き締められた。
……お店の人に大注目された事は、言うまでもない。
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