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◇
佐久間は喜びに震え、声をつまらせた。
「ほ、本当にいいのかい?」
佐久間の問いに七海は、白い肌を紅潮させながら頷いた。
「やった! 見たか! 俺にも春が来た!」
何度も近くの雑木林に向け拳を突き出している彼を前にして、七海はさらに恥ずかしそうに俯いた。
一瞬の静寂が場を包んだが、蝉しぐれがそれを壊した。
一滴の汗が佐久間の頬を伝った。
「よ、よし、それじゃ、いっしょに帰ろうか」
「はい」
佐久間はこの時間違いなく幸せの絶頂だった。天にも昇るとはこういう気持ちの事を言うのか、と帰り道で何度も呟いてしまった。
それは、その3日後に七海が死体で発見されるまで続いた。
◇
「うん? 1章はこれで終わり?」
「そうだ。なかなか良い導入だろう?」
「いや、これいらないんじゃない? 七海が死んだ所を導入部にすればよかったんじゃないの? 今後物語に関わってくるのかい?」
「推理する上で今後必要になってくる情報は入ってるぞ。フェアなミステリーを目指したんでね」
「ふぅん……」
◇
「そんな……嘘だ」
七海の死体に、登山服姿の佐久間はすがりついた。
発見現場は大学構内の隅だった。位置的に佐久間たちが所属しているサークル室からしか見えない死角に、七海の亡骸は横たわっていた。
首の右側に切り傷があり、それが致命傷になっているのは誰の目にも明らかだった。
血はもうながれていなく、彼女の遺体がぶら下がっていた木の下に、おびただしい量の血痕が残っていた。
「七海……七海……」
佐久間が彼女の肩を掴んで何度も名前を呟いた。
その場に集まった仲良しサークルの3人に緊張が走る。
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