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足を踏み出すごとにギシギシと音をたてる階段を登って襖を開けた。
「ただいま、さっき連絡した友達、連れてきたよ」
「おかえり、蛍司」
父さんは台所から顔を出した。
俺の後ろに立っていた河田が一歩前に出て俺の横に並んだ。
「お邪魔します!河田彰信と申します!永野くんとは二年生の頃から同じクラスで仲良くさせて頂いてます!」
さすが体育会系。
礼儀正しくハキハキ言う河田に感心したのと同時に、河田の言葉がドラマでよく見る彼女の家にやって来た男のセリフみたいに思えてきて、一人で笑ってしまった。
しかも“永野くん“って……
今までそんなふうに一度も呼ばれことがない。
必死に笑いを堪えていると、眉間に皺を寄せた河田の肘が、俺の肋骨に勢いよく入った。
………地味に痛かった。
父さんはそんな俺らを見て、穏やかな笑顔を浮かべた。
「河田くん、か。蛍司から話は聞いてるよ。さすが、剣道部の部長さんだ、しっかりしてるね」
「いえ、そんな……」
緊張した様子で河田は答えた。
「これからも蛍司と仲良くしてやってくれ」
そう言って父さんは笑った。
あんなに柔らかな父さんの笑顔は、久しぶりに見た気がする。
「はい」
隣で大きく頷く河田を見て、心が温かくなるのを感じた。
「もう少しで準備終わるからそこに座って待ってて………蛍司、刺身切るの手伝ってくれ」
父さんはそう言い終えると、台所に戻っていった。
俺は自分の部屋に鞄を投げ入れてから、河田に言った。
「荷物はその辺に置いて……テレビのリモコンそこにあるし、適当にくつろいで待ってて」
「ああ、悪いな」
まだ慣れていないのか、河田はどこか落ち着かない様子だ。
部屋中を珍しそうに見渡す河田を横目に見てから、俺は台所に向かった。
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