トンネルを抜けると

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トンネルを抜けると

トンネルを抜けるとそこはトンネルだった。 その前も、その先も、その次もまたトンネルだった。 白髪白髭の老人は辟易していた。 ここまで幾つものトンネルを抜けてきた。 屈折したもの、勾配のきついもの、狭く細いもの。 それでも歩みを止める訳にはいかなかった。 結婚はしていない。何十年の間で家族は皆居なくなった。友人らしい友人はそもそも居ない。 全て一人で乗り越えてきた。誰の力も借りず、数々の逆境に立ち向かい、打ち勝ってきた自負があった。 ここまで沢山の骨を踏んづけ乗り越え歩いてきた。 志半ばで息絶えた彼等の惨めさたるや、目も当てられぬと散々見下してきた。 自分だけは、果てに辿り着き、誰も見たことのない光を手に入れるのだ。 死期が迫っていることは知っていた。 世界で唯一つを、私がこれまで生きた証を、残したかった。いや、遺したかったのだ。 長い間背負ってきた自尊心や孤独に報いはあるのだと、だからこうして歩いてきた。 トンネルを数えるのも億劫になってきた頃、ついに食料が尽きた。 それでも老人は歩いた。それしかもう、彼に出来ることはなかった。 やがて足が動かなくなり、意識が朦朧とし、立つのも難しくなった。     
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