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こんこん。
規則正しく、ドアを叩く音がしたので返事する。しばし待っていたが、入ってくる様子がない。
しびれを切らして立ち上がり、戸を開けてみたーーが、誰もいない。日中も薄暗い廊下が、家の奥に向かって伸びているだけだ。
首をかしげつつ戻ってくると、向かい側に座った幼なじみが口を開いた。いたって軽い口調で、
「いなかった? 気にしなくていいよ、うちではしょっちゅうだから」
……確かにここは相手の自宅で、長年住んでいる人の方がよく知っているだろうけど。無人のノックが日常茶飯事ってどういうことだ。
そんな内心が顔に出ていたらしい。幼なじみはフォローのつもりか、苦笑混じりにこう続けた。
「前ね、どうにかして正体見てやろうと思って、ドアの前で待ち伏せしたんだ。ノックがした瞬間に開けたらいいと思って。
そしたらーー」
どんっ!!
ドアを思いきり叩く音が、言葉をさえぎった。明らかに機嫌が悪いというか、それ以上話すなとでも言わんばかりに。
……そして、ついでに気づいてしまった。今の音、ノックにしてはやけに位置が高い。まるで、もっと高いところから手を伸ばして叩いているような……
視線で訴えてみたところ、幼なじみはあっさり頷いて、こう付け加えた。
「そう。だから夜も廊下だけは電気が点けられないのよ。困ったもんよね」
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