喜び

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「ーーすごいな。 不思議なような、何だか怖いような……そんな幸せって、あるんだな。 こうしているとーー今、一番大切にしたいものはこれなんだって、はっきりとわかるよ」 「……そうですね。 不思議です。 ……ここにある命が、何よりも大切。はっきりと、そう言い切れる。 これまで感じたことのないそんな感覚が、自分の中にもうできている。 ーー俺もあなたも、この子達の親になるんですね。本当に」 「君を誰よりも愛していることは、これからも変わらない。絶対に」 「わかってますよ」  どこかムキになったような彼の言葉に、俺はクスクスと答える。 「最愛のひとが増える。……一度に二人も。 人生の中で、これ以上幸せなことって、きっとありませんね」 「……うん。本当だな」  そうやって小さく微笑みながら、俺たちは額を寄せ合った。 *  なんでも食べられ、美味しく味わえる、というのは、つくづく幸せなことだ。  つわりを抜けたその喜びが押し寄せるかのように、俺の食欲はここにきて一気に増進した。  自分自身の食欲も確かにあるのだが……お腹の赤ちゃんたちが「どんどん栄養を摂取するのだ!!」と俺の脳に指令を送っている気がする瞬間もあり、自分の意思とはまた別にボリューム満点の肉にひたすらかぶりつきたくなったりする。身体の仕組みというのは、すごいものだ。  ただ、過食による健康への悪影響には、くれぐれも注意しなければならない。「うっかりしちゃった♪」では済まされないのだ。俺はマタニティ用の雑誌や書籍を読み漁り、一層の健康管理に励んだ。  そして、8月中旬。  お盆休みがやってきた。 「ーー柊くん。 とうとうきたね。……正念場に向き合う時が」  年に数回の大型休暇が始まった、その日の夜。  彼は、静かな表情で俺にそう呟いた。 「…………そうですね」  どこか思いつめたような彼の空気に、俺は少しだけ俯く。  正念場。  それはーー横浜にある俺の実家へ、二人で挨拶に行く……まさにそのことだ。  両親には、すでに連絡済みだ。 「紹介したい人がいるから、連れて行く」……簡単に、そんなことを伝えた。  相変わらず父母とも仕事が忙しく、お盆には何とか二人一緒に休みが取れそうだーーというスケジュールに合わせたのだ。  俺もつわりを抜けたし、まだお腹も目立たない。タイミング的には申し分ない。
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