春の匂い(2)

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 父も母も、孫との接し方はなんともユニークだ。しかし、こういう新鮮な視点で子供たちの意識を刺激することは、もしかしたらとても大切なことかもしれない。ただ機械的に決まり切ったことばかり教えていては、親も子供もなんだかつまらない……そんな気もする。 「なるほど。君のキャラクターがどう形成されたのか、改めて納得だな」  俺の横で、神岡が何だか感慨深げに深く頷いた。 「……それは暗に、こういう環境でもなきゃ俺の変人っぷりは形成されないと?」 「んー、まあそうとも言うかな」  俺を横目で見てニヤつく神岡に、俺はムキになって食ってかかる。 「その言葉、そっくり樹さんにお返ししますが!? 今でこそ少しは立派なパパっぽくなりましたが、かつてのあなたの凄まじい変人っぷりを忘れたとは言わせませんよ!?」 「はは、ごめん、冗談だって!」  神岡は楽しげに答えながら、ふと真剣に表情を改めた。 「でもさ、いい意味の変人だろ? 僕も君もさ」 「いい意味の……?」 「うん。  人とはちょっと違う思考や言動が自分自身や周囲を幸せにするなら、むしろそれはウェルカムだ。僕は、そうして君に変人って呼ばれるような行動に踏み出したからこそ、君に出会えたし、晴と湊を授かった。自分の変人思考がなければ、こんな人生は決して手に入らなかったはずだ。  周囲とは一味違う柔軟な考え方ができるっていうのは、本当に大事だと思うんだ。自分の道を切り開いたり、壁を突破したりしなきゃならない時には特にね」  神岡のしみじみと穏やかな言葉に、俺も頷いた。 「……確かに、そうですね。  俺自身も、自分の中に変わり者が潜んでいなければ、あなたの提示した怪しさ極まりない契約には絶対乗らなかったでしょうし、危険を冒してまで新たな命を身籠ろうとも思えなかったかもしれない。  そう考えれば、斜め上をいく視点やものの考え方を植え付けてくれた父と母には、どれほど感謝しても足りないなあ……」
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