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「実家の正月、楽しく過ごせたか?」
キッチンでコーヒーを入れながらいつもと変わらぬ空気で言葉をかけてくる東條の背に、須和は不自然なギクシャク感を拭えぬまま答える。
「え、ええ、まあ……とりあえず、楽しくはなかったですけど」
「ははは、君とご両親の反りの悪さは相変わらずか」
二つのマグカップのグレーの方を自分の前に置き、ブルーのカップを須和の前に置いて、東條が須和の向かいのソファに座る。一見無機質でとっつきづらい端正な顔立ちに、ワインレッドの柔らかなタートルネックセーターとタイトなジーンズが調和して、よく似合う。
「カフェオレにしたよ。身体があったまる」
「……あ、ありがとうございます……」
慌ててカップを手に取った須和に、東條はふっと小さく微笑んだ。
「まあ、そう簡単に改まるものじゃないよな、身内の不仲なんて。
そう言う俺だって、実家の正月は何となく気詰まりだったし」
カップを静かに口に運び、額にかかった前髪を軽くかき上げながら長い脚を組んだ向かい側の男を、須和は暫くぶりに会う相手のように見つめた。
この人は、こんなふうにいつでも理性的で、自信があって、堂々としてる。
多分、俺の取り越し苦労だ。これから自分が話そうとしていることも、この人なら大らかに受け止めてくれるはずだ。
熱いカフェオレを口に運び、微かに緊張が解けかけた須和に、東條が問いかけた。
「——で?
昨日くれた君のメッセージは、随分改まった感じだったけど……『お話ししたいことがあるので、会う時間を作ってもらえますか』って。
どう考えても同居相手に送るコメントとは思えなくて、流石に笑ったんだけど?」
「……はい」
カップを置いた須和は、一度小さく俯いて、ぐっと膝に拳を握った。
そして、真っ直ぐに視線を東條に向けた。
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