空っぽの完璧

3/5
前へ
/664ページ
次へ
「……あってはいけないこと……?」 『ええ。有り得ないことですよね。許し難い、と言ってもいい。  身も心も薄くて軽い、そんな生き方しかできなかった男がほんの一瞬反省の素振りを見せたからと言って、この先そいつが一生信頼に値するなどと、なぜ信用できるんです?  信頼だけじゃない。持っているものが少なすぎるでしょう、あなたは。……僕の言ってる意味、分かりますか?  僕は、少なくともあなたよりは持っているはずだ。知識も、技術も、将来的な地位も、今後稼ぐだろう金も。そうじゃありませんか?   彼を幸せにできるのが一体どちらなのか、誰が見ても明白だ。  ——おい、君は黙っててくれ。まだ話は終わってない』  須和が話を中断させようと何か言いかけた気配が感じられたが、東條の乱暴な言葉に阻まれた。為す術もなく俯く須和の苦しげな表情が、強い痛みを伴って宮田の脳をよぎった。  宮田の奥歯が、低くギリっと音を立てた。  次の瞬間、宮田はここまで押し潰されそうになっていた劣等感を捨て去ったかのように、穏やかな声で東條へ言葉を返していた。 「……それで、あなたは……彼を僕の元へは帰さない、と……そういう主張をする気ですか」 『ああ、察していただけますか。それは嬉しいな』 「——あなたの主張は、わかりました。  須和くんに伝えておきたいことがあるので、彼に代わってもらえますか」 『手短にお願いします』 『……宮田さん』  火の消えそうな須和の声に、宮田は明確な口調で伝える。 「須和くん。ここからの僕の話は、ただ『はい』か『いいえ』かだけで答えてほしい。東條さんにこの会話の内容を勘付かれないように……できるよね?」 『…………はい』  須和は、宮田の意図を理解したようだ。 「じゃ、聞いて。  とりあえず、君のスマホを預かるとかパスコードを教えろとか、彼にそういう勝手な要求をされても、絶対に応じるな。彼の言いなりには絶対になるな。いいね?」 『……はい』
/664ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1424人が本棚に入れています
本棚に追加