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「それから、ひとつ案がある。
恋人同士などの間でだけ居場所の確認やメッセージのやり取りができる『ガーベラ』っていうアプリがある。それで繋がれれば、君が今いる場所も画面で確認できるようになる。
その位置情報で東條さんの部屋を探して、これからそっちに行く。夜分だろうが何だろうが、そんなこと気にしてる場合じゃない。
僕はもうアプリをダウンロードしてある。万一こういう場合があるかもと思って、さっき登録しといて良かった。今君を招待するから、君も今すぐ『ガーベラ』のアプリを入れて僕と繋がってくれ。部屋の位置情報さえ分かれば、この後もし君が自由にスマホを使えなくなったとしても君のところへ行ける」
『——……はい』
そう答える須和の声が、微かに震えた。
溢れそうな感情を必死に押し殺している様子が伝わってくる。
宮田と須和の手早い操作でアプリの接続が行われ、すぐに宮田の画面に須和の現在の居場所が表示された。その画面をスクショに収めながら、宮田は須和に話す。
「部屋の場所、分かったよ。とりあえず安心して。
僕がそっちに向かうことは、当然だが彼には伏せておいてくれ。僕が着くまで、できるだけ東條さんを刺激したりしないように、いつも通りに過ごして。君が落ち着いていれば、彼もそれ以上状況を乱すようなことはしないだろう」
『はい』
安心したのか、穏やかな須和の声が返ってきた。
今すぐに、彼の肩を抱き締めたい。
満足な言葉すらやりとりできない状況の切なさに、宮田は身悶えする。しかしあまり長く話すのも東條を刺激する原因になりかねない。宮田は早口で須和に伝える。
「じゃ、切るね。何が何でも彼と真っ向勝負させてもらうよ。東條さんが万一出かけたりしないよう、引き留めておいてくれ」
『はい。じゃこれで』
須和も、これ以上通話時間を長くしたくないのだろう。焦るかのように通話終了ボタンが押され、スマホの奥は無機質な機械音に切り替わった。
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