空っぽの完璧

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 静かになった部屋で、宮田は先ほどの東條とのやりとりを思い返す。 『——身も心も薄くて軽い、そんな生き方しかできなかった男がほんの一瞬反省の素振りを見せたからと言って、この先そいつが一生信頼に値するなどと、なぜ信用できるんです?  信頼だけじゃない。持っているものが少なすぎるでしょう、あなたは。……僕の言ってる意味、分かりますか?  僕は、少なくともあなたよりは持っているはずだ。知識も、技術も、将来的な地位も、今後稼ぐだろう金も。そうじゃありませんか?  彼を幸せにできるのが一体どちらなのか、誰が見ても明白だ』  彼の言っていることは、どこをとっても1箇所も間違っていない。  まさに「完璧」だ。  しかし、これほどまでに中身を伴わない、空っぽな「完璧」もあるのか……初めて知った。 「確かに、僕は何も持ってない。  だが、あんたの持ってないものを持ってる。あんたより間違いなく優れた、最強のアイテムをな。  ——とりあえず30分あれば着きそうだ」  ソファから立ち上がり、ハンガーのコートと小さなリュックを勢いよく掴むと、宮田は足早に玄関へと向かった。
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