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息を殺してドアが開くのを待つが、誰も出て来ない。玄関の横の窓の明かりはついているから、中には誰かいるはずだ。
二度目を押したが、やはりドアは開かない。急激な不安が宮田を襲う。
その時、静かだったドアの奧で、不意にガタリと物音がした。
————まずい。
直感的にそう感じた次の瞬間、宮田はドアに向けて声を放った。
「宮田です。
今すぐ開けないと、通報します」
しばしの静寂の後、ガチャリとドアノブが音を立て、玄関が静かに開いた。
「——初めまして、宮田さん」
張り付いたような笑みを口元に浮かべ、すらりとした男前がギラついた目でこちらを見据える。
「ここの住人の、東條です。
しかし、こんな時間に押しかけておいて最初の挨拶が通報とは随分失礼ですね」
「——彼に、おかしなことをしていないだろうな?」
宮田は一つ深く息を吸い、東條を真っ直ぐに見返しながら声を低めて問いただした。
「はは、おかしなことって。初対面の相手をケモノ扱いですか?」
「誤魔化すな。
この空気の臭いを、僕はよく知ってる。——あんたからは、以前の僕と同じ臭いがする」
「…………は?
ふざけるのはやめてくれるか? 君のようなのと同類扱いとか、立派な侮辱罪だぞ」
ギリギリと唸るような東條の呟きに、宮田は浅く笑んで答える。
「やましいことが何もないなら、中に入れろ。
無理矢理妨害するような卑怯な真似はやめて、正面から勝負しろ。でなければ、この勝負はあんたの負けだ」
宮田の放った「負け」の一言に、東條の目の奥が一層不穏にゆらめいた。
「——いいだろう」
にっと口元を引き上げた東條はドアを大きく開け、宮田を中へと導いた。
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