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カラカラに晴れて暑い、お盆休み真っ只中の昼少し前。
神岡と俺は、横浜にある俺の実家へ向かって車を走らせていた。
両親には、午後1時に訪問を約束してある。
とりあえず砕けた話ではない。神岡は、ビシッと引き締まった最高級スーツで臨戦モードだ。
俺も本来はそういう出で立ちで臨むべきところなのだが……ここにきて、どうやらスラックスの腹部に微かに窮屈な感覚が生まれ始めていた。
双子なのだ。お腹も当然その分早めに大きくなってくる。藤堂からも、そう説明を受けていた。ただ、骨格全体は女性よりも大きいため、膨張は女性に比べれば多少は穏やかかもしれない……らしいけど。
何れにしても、不必要に腹部を締め上げたりは絶対にできない。
結局、あまり締め付けなくて済むゆったりしたチノパンと柔らかいサマーセーター、というカジュアルモードに甘んじた。
「荷物は全部僕が持つから。足元、気をつけてね」
車へ乗り込む際の神岡の気遣いもすっかりそんな感じで……どこかが変に気恥ずかしく、むず痒い。
うっかりすると自分自身も男である自覚を手放してしまいそうな……いや、俺男だから!断じてママになる訳じゃないし!!……そんな微妙に複雑な気分で、助手席に背を預けた。
「…………」
ハンドルを握りじっと前を見つめる神岡の横顔から、ビリビリと緊張が伝わってくる。
当然だ。ぶっちゃけた話、これから会う両親からどんな反応をされてもおかしくない状況なのだから。
隠しようのない正真正銘のハイクラスなオーラ。
そして、それとは少しそぐわないほどの、真っ直ぐな明るさや細やかさ。
両親が冷静に彼のことを見てくれれば、俺がこれ以上ないパートナーを掴んだことくらいは喜んでもらえる……気がするのだが。
「……柊くん、どうしたの?どこか具合でも悪い?」
俺の視線を感じたのか、神岡がふっと視線をこちらへ向けて問いかけた。
「……いえ。
樹さん、やっぱり男前だなあと思って」
その途端、彼の肩がぐぐっと震えた。
「……ちょっと休憩」
眉間をピクピクさせながら、通りがかりのコンビニの駐車場に入る。
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