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勇者一行は町の墓地に丁重に葬られた。彼らの装備品は形見として本国の家族の元へと届けられた。
しかしモリア銀の腕輪だけは、アンナが譲り受けた。
愛する人に贈った腕輪。
愛する人から贈られた玉の小刀。
その両方を身につけている。勇者に護られているように感じた。勇者がそばにいてくれるような気持ちになった。
そしてアンナは十七歳になった。赤ちゃんを抱いていた。
愛し合ったのはあの雪の夜だけ。これからもきっとそのままで私は一生を終えるだろうし、そうありたい。
目鼻立ちは彼に似て、色白なところはアンナに似たようだ。
彼の血を引くこの子は、きっと勇敢で強く優しく育つだろう。しかし、勇者の血を引いていることは決して明かさぬと決めている。
愛する息子が父の仇を討つと言い出すことが恐ろしかったからだ。大切なものを失うのは一度でいい。身を裂かれるような思いはもう十分だ。
息子に乳を与えていると、
「新しい勇者様が来られるそうだ」
おじいちゃんとなったオルスが言った。
「そうですか。次の勇者様こそ、きっと魔王を討ち果たしてくれましょう」
「うむ。勇者様は私たちの希望の星。信じよう。その子の父親のためにも」
「ええ。この子の将来がどうか平和でありますように」
窓の外を見ると、しんしんと雪が舞っていた。
Fin.
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