旅の終わりは北の最果て、雪と氷の最後の町

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「大丈夫。僕は必ず帰ってくる」  勇者はアンナの頭を撫でた。温かい手のひらだった。 「アンナさん、渡したいものがあるんだ。今晩、僕の部屋に来てくれるかい?」 「はい。私も渡したいものがあるのです。ぜひお伺いさせていただきます」  勇者は、それは楽しみだと、アンナの手を握った。  アンナが準備していたのは、モリア銀の腕輪だった。父に教わりながら作ったものだ。装飾はボロボロだし、仕上げの護りの刻印は父に代わってもらったが、本体を一から作ったのはこれが初めてだった。勇者は大層喜びで、早速右腕に装備した。耐呪文性能に優れるモリア銀の腕輪は、きっと戦いの役に立つだろう。 「アンナさん、ありがとう。僕はきっと魔王を打ち倒すことができるだろう。だって、君が護ってくれるのだから」  窓の外には、雪がちらついていた。そういえば、勇者一行が到着してからは初めての雪だった。 「アンナさんにはこれを持っていてもらいたい」  そう言って手渡されたのは、玉の小刀だった。 「綺麗……」  明かりにかざすと、七色に輝いた。 「僕はいつも君を想おう。そして、必ず君の元に帰ってくる。腕が千切れようとも足を失おうとも必ず。だからどうか信じて待っていて欲しい」  アンナはもうなにも考えられなかった。ただ、目の前の愛する人に抱きすがり、泣きじゃくるしかできなかった。  行かないで。どうかこのままここにいて! 込み上げるが言葉にすることなどできない。死地に赴かんとする勇者に心残りを与えてはならない。代わりに、想いとは真逆に、送り出すための言葉を吐く。 「どうかご武運を。世界に平和をお与えください」  勇者はアンナの背に腕を回し、抱きしめる。  雪の降る夜。二人は愛を誓い、愛を確かめ合った。
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