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「お、魔王城だ」
オルスが言った。
「今日は天気が良かったからなぁ。いつもより早く着いたぞ! さて、勇者様ご一行はどこだろう」
黒雲渦巻き、雷が鳴り響く。辺りは禍々しい邪気に包まれていた。
城門では、激しい戦いの跡がそのまま残されていた。朽ちた魔物魔獣の死骸。折れた槍や巨大フォーク、怨みがこもっていそうな包丁が地面に突き刺さっている。
一帯に魔法障壁を展開し、捜索が開始された。斥候らしき魔物が時折魔王城より放たれるが、目に見えぬ魔法障壁に触れた瞬間原子レベルまで分解された。
戦士、僧侶、魔法使いが次々と発見された。しかし、オルスは彼らの姿を決してアンナに見せなかった。見せられるものではなかったのだ。
アンナは必死に勇者を探した。腐敗した肉を素手でかき分けた。血を吸った泥を掘った。
そして、やがて目に飛び込んできたのは、玉鋼の輝きだった。
ああ……やっと。
アンナは一心不乱に泥と死肉を掘った。そんなアンナの様子に気付いたオルスが手伝いに走ってきた。
「いかん、アダマンタイマイが邪魔だ」
体長百メートルくらいはあろうかという巨大亀の死骸がのしかかっていて、それ以上掘り出せない。
オルスはアダマンタイマイの甲羅を思いきり蹴とばした。ぴゅーーと彼方に飛んで行って、魔王城の尖塔に直撃した。塔が崩落した。
「勇者様……」
変わり果てた勇者。アンナはそれでもひたと抱きしめた。
「あなたを愛しておりました。お帰りになるのを待っておりましたのに……」
幸せだった十日間が鮮明に蘇る。愛し合った雪の夜が昨日のことのようだ。
しかし勇者様はもう喋らない……もう笑わない、泣かない、怒らない。
指先がちりちりし、口の中がからからになり、目の奥が熱くなった。
「勇者様ご一行を町へお連れするぞ」
死闘の果てに命を散らした四人の勇敢なる戦士をそれぞれ柩に収めると、町民たちはダンジョン脱出魔法を使って町まで一斉に帰還したのだった。
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