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……とはいえ、高校に入って寮生活が始まれば、この慣れ親しんだお散歩コースともしばらくはお別れとなってしまう。
小さな頃から自分を見守ってくれたこの道にも、感謝と少しの寂寥(せきりょう)の念を覚えながら、あやめはいつもより少しだけゆっくりと帰路を進んで行く……。
そんな中。
不意に横から吹いた風が、あやめの服を、髪をふわりと舞い上げ、柔らかな春の匂いを残して去っていった。
頬に手を添え、風に遊ばれそうになった髪を軽く押さえるあやめ。
そっと片目を閉じながら、同時に春風に乗って運ばれて、宙に舞い散る桜の花弁の行方を何気なく目で追って……。
……その時だった。
(……あっ)
不意に、あやめの前方。
ゆるやかな坂道を下った道の先に、ぽんぽんと、何かが弾むように転がって来た。
よく見ると、それはメロンほどの大きさをした、青くツヤのあるボールだった。
ちらりと、ボールの転がって来た方向に視線を向けると、そこには児童公園。
中からは子ども達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
……くすっ。
元気いっぱいに遊ぶ子ども達の様子に、何となく微笑ましく思いながら、転がってきたボールへと、あやめは足を向け……。
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