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……その時だった。
不意に、あやめが見据える道の先。
ゆるやかな坂道を下った先から、1台の大型車両……車体に有名な運送会社のロゴマークがプリントされたトラックが現われたのだ。
乗用車がギリギリ2台並んで通れるかどうかといった、大して広くも無い住宅街の道路。
その道路の脇から大きな車体を器用に左折させながら姿を現したトラックは、そのままあやめの方へと走って来た。
あまりスピードは出ていない。
真っ直ぐ、安定した挙動で走って来るその様子からは、危なっかしさなどは微塵も感じない。
……けれども、そのトラックを見た瞬間、あやめの心がざわついた。
「っ……」
小さく息を呑み込みながら、あやめは吸い寄せられるように再び視線を子供たちの声が聞こえて来る公園と、転がって来た青のゴムボールと、それからトラックへと順に向ける。
……そして、最後に視線を向けたトラックの、そのフロントガラスの向こう……。
“スマートフォンを耳に押し当てたまま、誰かとの通話に夢中で前方のゴムボールに気付いた素振りの無い”若い男性の運転手の存在を認めた瞬間、弾かれたようにあやめは走り出した。
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