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とあるマンションの玄関ホールに着いた俺は、自動ドアの脇にあるカメラとテンキーの付いたインターフォンの前に立ち、部屋番号を入力してエンターキーを押す。数十秒ほどしてから女性の声がする。
「須藤です」
『あら。薫ちゃんね。今あけるわ』
「…はい」
通話が終わると自動ドアが開いたので、俺は正面にあるエレベーターに向かいボタンを押す。ちょうど1階に止まっていたエレベーターのドアが開き、乗り込んだ俺は7階を押す。これがデパートとかなら閉まるのボタンも押すが、少しでも時間を稼ぎたいので敢えて押さない。
「はぁ…」
ドアが閉まり、上昇を始めたエレベーターの中で溜息を吐く。できるなら此処には来たくない。でも、自分が仕出かした事が原因なので仕方ない。俺はこのマンションに住んでいる女性にある事を強制されていて、それはこれから向かう女性の部屋で行われる。
「…はぁ」
もう一度。溜息を吐くと同時にエレベーターが7階に着き、アナウンスが終わりドアが開いた。
7階の廊下を進み、1番奥の部屋のドアの前に着いた俺は、少し躊躇った後にインターフォンのボタンを押した。
『薫ちゃん着いたのね?』
「は、はい」
『待っててね』
短い会話を終えて直ぐに、鍵を開ける音がするとドアが開かれ、女性が目の前にあらわれる。女性は肩まである黒髪に、二重瞼の大きな目をしていて、右目の目じりの近くには泣き黒子があり、ぷっくりとした唇をした美人で名前は黒河沙織さん。
「さ、沙織さん。こ、こんにちは」
「ええ。こんにちは。薫ちゃん。さぁ。入って」
沙織さんは体でドアを支えながら笑顔で言う。俺が頷いて言われるままに玄関に入ると、ドアが閉められ鍵がかけられた。
リビングに入ると、後ろから付いてきていた沙織さんが声をかけてくる。
「それじゃあ。薫ちゃん。早速。お着替えしましょうか」
「……は、はい」
振り返るとそこには満面の笑みを浮かべた沙織さんがいて、その笑顔からは一切の拒絶を受け付けないという意思が感じられ、俺は直生に頷くと自分に与えられた部屋へと向かった。
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