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高1の夏休み。
お盆が過ぎてもちっとも陰りを見せない夏の暑さに嫌気がさし、茹だるような熱帯夜をなんとかやり過ごすべくベランダで星を眺めていたある日のこと。
同じようにベランダに出てきた友也が私にこんなことを言った。
「今度の土曜日、海に遊びに行かん?」
24日~26日までテニスの合宿があって、27日は珍しく部活も休みらしい。
「花火とか、どう?」
「花火か……よかね。もう誰かに声かけたと?」
デートのお誘いかと一瞬思ったけど、花火だったらみんなでやったほうが楽しいもんね。
そうだよね、二人きりのわけないよね。
「ああそうだな……。俺が何人か声かけてみる。明日美は何もせんでよかぞ、俺が誘うけん」
**********
辺りが薄暗くなり、波の音が涼しげに感じられてきた。
「ごめんな明日美。結局二人だけになって」
友也が誘った友達はみんな都合が悪くて来られなかったらしい。
「ううん、でも誰も捕まらんって珍しかね?」
本音を言えば、良かったなんて思ったりして。
友也はきっと残念だったはずなのに、ごめんね。
二人だけでする花火も、友也とだったら楽しくて仕方ない。
ほら、友也だって楽しそうじゃない!
あっという間に花火もなくなっていき、最後に残ったのは線香花火。
「なんかさ、線香花火の玉の落ちてしもうたら、夏も終わりって感じで寂しかね」
「よし、じゃあこの最後の線香花火は、玉ば落とさんごとするけん。もし落とさんやったらさ……」
落とさんやったら……何?
じーっと息をするのも忘れて線香花火の玉に見入る。
パチパチ、パチパチ……。
もうちょっと、あとちょっと、あ…………。
玉は最後まで落ちずに黒い塊となって火がスウッと消えていった。
辺りは静寂に包まれ、遠くで波が打ちつける音だけが響いている。
真っ暗な中で友也の顔が近づいてくるのを感じ、目を閉じた。
けど…。
「あー!明日美と友也くんじゃ?」
真実と町田くんだ。
あれ?今日は来られなかったんじゃないの?
「二人で花火?なんで誘ってくれんかったと!」
「よし!俺たちも花火買って来ようで!」
みんなを誘ったっていうのは、嘘だったの?
真実たちが花火を買いに行った隙に、友也が私の手を掴んで走り出した。
「え?友也??」
「逃げっぞ」
終
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