山の眺め

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山の眺め

ずっと隣にいたいと願った。 しかし、それが叶うことは無かった。 昨日、xxくんに引かれて山の高台にある展望台に行った。 そこからは、麓に広がる港町が一望できた。 こんなにも綺麗なのだが、あまり知られていないようで私たち以外は誰もいなかった。 私たちはずっと水平線を見ていた。 かなり話をしたが何を話したかは覚えていない。 世間話あたりだったのだろう。 楽しかったことだけは、脳の一番奥に刻まれていた。 私は「楽しい」だとか「嬉しい」という感情を持つことがあまりない。 学校に行けばイジメに遭い、家に帰れば夫婦喧嘩と冷めた食事だけだ。 帰れる家があることや、食事があることだけでも充分幸せな事なのは分かっている。 だが離婚するだのなんだので騒がしく、とても家にはいられない。 ここまで大きな楽しさを覚えたのはいつぶりだろうか。 小学校二年生の時の家族旅行だろうか。 そうだとすれば八年近くも前になる。 今までの人生の半分ほど前だ。 それだけの期間が空くと嫌でも脳の一番奥に刻まれていく。 それくらいの高揚感でxxくんと話していた。 しかしその高揚も長くは続かない。 気がついたときには隣からxxくんはいなくなっていた。 何かが終わる直前、誰かの叫び声が聞こえた気がした。 xxちゃんと見た海は、とても美しかった。 xxちゃんが何人かにイジメられているのを見た。 僕はxxちゃんをイジメていたリーダー的な女が嫌いだった。 そんな事を理由にしてはいけないが、その女を蹴り飛ばしてしまったのだ。 気がついたときにはxxちゃんの手を引いて学校中を必死に 走り回った。 そのまま勢いに任せてここまで来たのだ。 僕は何か嫌な事があるとこの場所に来ることが多い。 僕の日常は味気ないのだ。 毎日同じ事の繰り返しで新しい事など無いに等しい。 だからよくないことだとしても楽しいのだ。 xxちゃんと何かをずっと話していた。 空が不気味な位赤黒く染まった頃、僕たちは帰り道に立った。 二人並んで歩いていた。 xxちゃんは楽しそうな横顔をしていたと思う。 なぜか、僕は宙を舞っていた。
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