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決意
スーパーにショッピングモール、デパート。
どこに行っても甘い匂いが漂ってくるこの季節は、恋の季節と言っても過言ではないだろう。
そんな私も1人の女子。
恋人へ贈るため必死で探し、選び抜いたのは丸くてキラキラと輝く宝石と間違えそうなチョコレートだった。緋、翠、碧とそれぞれが美しく魅せられている。
心は完全に奪われ、迷うことなく即決。
やはりお値段は少々張るみたいであったがこのクオリティのチョコレートであれば文句は一切ない。
そうして今、例のチョコレートを手に入れるため電車に乗っていた。景色は段々と見慣れない街に変わり、1時間後にやっと到着。
前にも来たことのある店であったため、迷わずに済んだ。方向音痴な自分にしては上出来だろう。
金色の大きな取っ手を掴んで扉を開けた途端にふわり。チョコレートの香りだ。
「すみません、アンモライトの5個セットを。」
宝石の名を名付けられたチョコレートを注文する。
本物のアンモライトに負けないくらい麗しい虹色を放っていたそれは、私の目を引きつけて離さなかった。
無事に買い終えたこれは数日後に恋人の手に渡る____
____ことはない。
恋人だった貴方はもう隣にいないのだから。
一年前、貴方にこのチョコレートを渡しました。
そしたら貴方は喜んでくれました。
でも、手作りのチョコレートも食べたかったなとぽつり。溢しました。
私があんまり料理が上手くないことを知っていても期待されていたのに喜んだりもしました。
楽しかったあの頃が走馬灯のように流れる日々。
バレンタインの文字を見るだけでも、チョコレートの匂いが鼻腔を刺すだけでも胸が痛くて痛くて仕方がない。バレンタインをこんなに忌む日が来るなんて思いもしなかった。
「これ食べたら……少しはマシになるかな。」
アンモライトには【過去を手放す】という宝石言葉があるらしい。
それを信じて、私は一粒のアンモライトを口に入れた。
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