Part1 「真っ赤な屋上で」

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彼が彼女と出会ったのは、ちょうど彼の人生が残り僅かだと告げられてから、少し経った秋の暮れの頃であった。彼は生まれつき病弱で、齢15でこのような宣告を受けた。彼は、いつか訪れるであろうこの瞬間を、誰かの掌の上でフワフワと弄ばれているかのような感覚の中待っていた。十二分に心構えはできているつもりでいたが、いざ突き付けられた現実に、彼は終始動揺し続けていた。 そんなある日、彼は彼女と出会った。 その日、病室の薄ぼけた窓から見えた、鮮血を垂らしたような真っ赤に染められた秋空に、彼は妙に心を奪われた。 こっそりと病室を抜け出し、一段一段屋上への階段を確かに踏みしめて行く。ギーという甲高い不快な音と共に、分厚い鉛の塊のように重い鉄製のドアを押し開けると、そこには想像にもなかった景色があった。少女らしき一つの姿が、二呼吸をつく間もなく、彼の視界から消えて行ったのだ。  
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