Part1 「真っ赤な屋上で」

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彼は大切な宝物を壊してしまった時のような絶望感と焦燥感で、茫然とその場に立ち尽くしていた。少し気持ちが戻り、冷静さを取り戻すと、彼女の行動の意図を探る。何が彼女をそうさせたのかは勿論わからなかったが、行動の意図はすぐさまはっきりと理解できた。彼は慌てて安全柵から彼女の居るであろう場所を俯瞰したが、すぐにその日二度目となる血相を欠くことになった。つまり、そこに彼女の姿は一切なかったのだった。  彼は狐に化かされた気持ちで、虚空を眺めていると、背後から甲高く声高な呼び掛けが聞こえた。  「ねえ…。あんた下なんて見て何してるの?」  不意を突かれた彼は、鳩尾を殴られたような面持ちで呼び掛けに振り向いた。すると、そこにはさっき飛び降りを決行した少女が居た。目の前に居る彼女がさっきの少女だと、彼がすぐに気付いたのは、今日の夕焼け空と同じほどに純粋で真っ赤な彼女の髪色のせいだった。真っ直ぐ見つめる彼女の瞳もまた、真っ赤な赤色であった。現実離れした彼女の「赤」は、今起きた不可思議な出来事と共に、裂傷のごとく彼の心に刻み込まれた。彼は心底驚き、魅了されていたのだ。  「間違ってたら申し訳ないけど・・・君はさっきここから飛び降りたよね?」  少しの沈黙の後、彼はこのように口火を切った。畏怖の念があったからだろうか。彼はなぜか無駄な前置きを付けて、腫物をつつっくように慎重に、恐る恐る質問した。静寂が何十分にも感じられ、「これはまずい質問だったか・・・。」と彼がしでかした失態を繕おうとした時、彼女はあっけらかん顔で「ええ。」と、案外すんなりと首肯した。
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