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ひそひそと、ちょっとしたデート気分で同行していたティンクがへそを曲げたような調子でピーターに聞く。
「だまして悪いけど、観光は依頼の後かな……」
河川と化した町を見ながら低めのボリュームで返す。
「へへ、気楽でいいねえ、ご両人!」
ふくれっ面を作るティンクは会話を隠したかった様だが、向かい合う形で座っているから男にも聞き耳を立てずとも十分に聞こえていた。
町長の出した依頼は山の火口だった場所に存在する巨大な水の石の回収で、王都に依頼を出したのは町民に対して秘密裏に事を運ぶためだった……。
「親父、依頼を受けてくれたって言う冒険者が来てくれたぜ」
鼻に酒臭さを感じる事が表すように飲んだくれた初老の男が町長で、そう言われても二人には疑わしく思える姿だった。しかし、
「ウゥイ、ヒック。……よく来てくれた冒険者殿。早速だが、仕事の話をさせてもらってもよろしいか?」
「……すごいわね、酔いどれ親父が一瞬でダンディなオジサマになったわ」
ティンクが囁く内容に頷く。表情、佇まいに着崩れを何気なく直して威厳をすぐに纏ってみせた様子は、傑物であることを予感させた。
(交渉は長引くかね、こりゃ?)
そろそろ大人数の弟妹に贅沢をさせてやりたいと考えるのは、孤児院出身の青年冒険者、ピーターだった。
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