奇術師の登場

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「なるほど、して、その鍵というのはどんな仕掛けで開くのでしょう?」 「なぜそれを言わないといけない?こんな大勢の前で…。」 元也は渋った。 当然と言えば当然だ、金塊が盗まれたとはいえ、まだ半分がのこっているし、金塊の他に、クリスタルで動物を(かたど)った置物もある。あれも売れば結構な値段になるに違いない。 「あの、すみません、動物のクリスタルみたいな置物はそんなに高くないんですか?」 「ん?いや、そんなことは無い、天然の水晶から名のある彫刻家に掘ってもらったので結構な額になるはずだ。」 元也が説明してくれた。 「なんで金庫に?」 これには元斎が答えた。 「お恥ずかしいが、十二年前から妻の言いつけで厄除けみたいなものじゃよ…毎年私の誕生日にその年の干支をほってもらうんじゃ…失くしたら彫刻家に怒られるからしまってあるんじゃ。今年はワシは参加できんかったが…。それより、鍵の事はもう言っていいじゃろう。」 「え?まずいよ父さん!」 「いやあ、協力して貰うんじゃからそれくらいせんとな。それに理屈が分かったとて開けられるものではあるまい。」 「……たしかに。」 元也は渋々納得した様だ。 「この金庫の鍵はこれじゃ。」 元斎は首にかけたペンシル型の鍵を見せた。 どこからか、「おおっ。」と声が聞こえた。 なんの「おおっ」かわからないが。 「うむ、そしてこの中には特殊な磁石が入っておりそれに反応して鍵が開くのじゃがそれだけではない。」 「というと?」 「ちゃんと鍵を指すと金庫から光が出るんじゃがその光にわしか息子のどちらかの網膜を当てることで解錠となる。」 「え?網膜認証?」 「いかにも…どうじゃ?開きそうかの?」 奇術師をみて元斎は言った。 「ふうむ、恐れ入ります。そんなに複雑なものだとは…。」 さすがのピエール尾張も首を捻った。 「ほら見ろ…。」 「よしなさい。」 元也を元斎が(たしな)めた。 奇術師ではないが私も横で首を捻った…確かにこれではあかない…不可能の鍵だ。
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