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「そういえば、そろそろ金庫を閉めた方が良くないですか?」
なぜかずっと開きっぱなしの金庫をみて私は言った。
「閉めるなら私にやらせて頂きたい。」
ピエール尾張は変なところに食いついてきた。
「それは構わんが…なぜじゃ?」
元斎が真っ当な質問をする。
「いえ、私も不思議なものに目がなくて、その…科学の粋を集めた鍵を使ってみたいのです。」
そういうとピエール尾張は手揉みをした。
「なるほどな…しかし、それは無理じゃ。」
「な、なぜです?」
断られると思ってなかったピエールは驚いて普通に質問した。
「なぜなら、しめるときは鍵を使わんからじゃ、つまりオートロック。」
「なんと…。」
「やってみたいかの?」
「あ、そうですね、一応。」
奇術師は普通に扉を閉めた。
そして、開けた。
「あれ?開きますよ!」
奇術師は驚いて言った。
「たぶん、服か何かが挟まってたんじゃないですかな?相当昔に椿も同じ様なドジをやってましたぞ。エプロンを挟んで閉まらないとか言ってたなぁ、懐かしい。ふぉふぉふぉ。」
元斎はそういうと当時を思い出した様に笑った。
ピエールが下を見ると確かに無駄にヒラヒラした服の端が挟まっているだけだった。
……ガチャン。
重々しい音がして、今度は本当に閉まった。
ピエール尾張は振り向いて言った。
「いやぁ、本当に素晴らしい金庫だ、是非鍵も触らせて貰えませんか?」
「触らせてってさっき触ったじゃろ?マジックの時に。」
確かに、およそ三時間ほど前にマジックのネタで大切なものを預からせてくださいと言われた時に元斎はこの鍵をピエール尾張に預けたのだ。
まあ、もちろん返ってきた。なぜか切ってないバナナの中から出てきたので拭き取るのに大変だったが…。
「たしかに、そうなんですが…あの時は仕事中でしてあんまりじっくりとは見れませんでした。今度はプライベートということで…。」
そういうとまた手揉みをして笑った。
私はなんとなく怪しいなと思ってその時の様子を思い出した。
確かあの時ピエールはこう言ってたはずだ。
「ありがとうございます。貴重な鍵を預からせて頂きます。」
まてよ…なぜ、あの時ピエール尾張はこれが鍵だとわかってたのだろう?
元斎は貴重なものと言われてたまたま持っていた鍵をさしだしたが…どうみても鍵には見えない代物だ。
そして、私は気がついてしまった。
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