奇術師の推理

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「なるほど。」 元斎も膝をピシャリと叩いて頷いた。 「わかりました…では病院に連絡を入れてみます。それが本当なら今頃、本物の救急隊員が拉致されてるでしょうから大変な騒ぎになってるでしょう。」 私はそう言って、病院に電話した。 「そうじゃ!それが本当なら椿はどうなったんじゃ?」 元斎は事の重大さに今更ながら気が付いた。 「確か、呼んだ病院は磯義野(いそぎの)病院でしたっけ?」 「さようじゃ!早く連絡を!」 もしも、椿さんに何かあったとしたら、私も現場にいた刑事として責任を感ぜざる負えない。 が、磯義野病院とのやり取りを終えた私は鷲尾元斎の方を見て微笑んだ。 「椿さんはもう眠ったらしいです。」 「なんと、良かった。」 「あと、当然ですが、誰も拉致されてません。」 「あの…万が一というか、自分らが呼ばれることがわかってての犯行かも…。」 「ピエールさん、小説の読みすぎですよ。」 「真実は小説よりも奇なりと言いますからね。」 「…確かに。例えば犯人なのに、まるで犯人を追い詰める名探偵の様に振る舞うとか…。」 ピエール尾張は何か言おうと口を動かしたが、何も言えずにいた。 「他に何か言いたいことは?」 「大きな荷物を運び入れたり出したりした奴がいたはずだ!」 私は元也の方を見て、どうですか?という顔をした。 「大きな荷物なんて運ばれた記憶はないなぁ。……あ。」 「あるんですか?」 私は驚いて元也に聞いた。 「ちょうど、去年の今頃だったかな。叔父さんに熊の剥製を送って貰ったっけ?」 元成は警備員の山田に聞いた。 「確かにそんなのが来ましたね、運送会社の人が閉口(へいこう)してました…車の入れない屋敷は初めてだって言ってましたね。」 「それだ!」 奇術師は叫んだ。 「なにがそれなんです?」 「その中に人が…。」 たしかに人1人くらい隠れられそうだが…そのあとどうするんだろう。 「もしも隠れてたとしてどうするんです?」 「…そ、それは……これから考えようじゃないか…。」 「…とりあえず、後は我々で考えます。あなたがどうやって金庫を破って金塊を運び出したのかをね。尾張照明(おわりてるあき)さん。」 私は数人の警官を呼ぶとピエール尾張を連れて行くように指示した。 少し冷たい所で一晩過ごせば考えも変わるかもしれない。
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